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| 2006年の年が明けてわずかに2週間。KKFC特攻隊長のケイ隊員から、KKFC秘密掲示板に突然召集命令が掛った。 「前回の集会で話題になった厳冬期アルプス縦走新年会なんですが、そろそろ決行の時期が来たのではないでしょうか」 晩秋に行った奥鬼怒湯沢幻の秘湯巡りからわずかに2ヶ月。普段、小春日和の縁側で丸くなっている猫のように、いくら呼びかけてもまったく反応しないKKFCとしては、異例のサイクルの短さである。 「今回の縦走はかなり厳しいものになると思います。ここはひとつ潤平さんに登攀隊長をお願いします!」 ケイ隊員がぐいぐいと企画を進めていく。常に積極的なケイ隊員の存在はKKFCにおいて限りなく貴重である。おそらく彼がいなければ、KKFCがまともに集まることは、年に1回もないのではないだろうか。 「う〜ん・・・」 ケイ隊員の呼びかけを目にして、パソコンの前で腕組みをしたまま潤平隊員が唸る。 確かに例年にない寒波が居座り続ける、この年の厳冬期アルプス縦走は危険な山行だ。若かりし頃、単独で縦走に挑戦し、わずか2座目にして行動不能に陥って、小屋にたどり着くことさえ出来なくなり、風雪に打たれながら緊急ビバークをした苦い経験が潤平隊員にはあるのだ。 増してや今回のKKFC参加メンバーは潤平隊員を含めて7人の大パーティである。おそらくピッケルとザイルは必須の厳しい登攀になるはずだ。 あくまで単独行を貫きながら、ただ一度だけパーティを組んで決行した厳冬期の北鎌尾根で風雪に消えた不世出の登山家、加藤文太郎の最後が潤平隊員の脳裏を過ぎる。 しかし、ケイ隊員の呼びかけに呼応して、何時になく隊員達の士気は上がっている。 腕組みをしたまま目を瞑ってうつむいていた潤平隊員はおもむろに缶ビールを手にとってプルトップを引き、そして静かにつぶやいた。
かくして、潤平登攀隊長、えび副隊長というKKFC最恐最悪のインチキコンビを核に構成された無謀な縦走計画は、あっという間に決行の朝を迎えたのである。 |
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| KKFC群馬隊である、山に行きたい、きむひろ両隊員は山に行きたい隊員のデラックスワゴン車で松本近郊の独立峰である独鈷山で雪山ハイクを楽しんでから松本駅に向かうことなった。一方、東京神奈川隊のケイ、高田、かば、潤平隊長、えび副隊長は、KKFC集会の度に奮闘を重ねる、ケイ隊員のボロン号に乗って中央道に乗る。 決行前夜、行動派のケイ隊員が発した「松本アルプスで群馬隊と合流する前に、白馬でスノシューハイキングを楽しみましょう」という呼び掛けに対して、「え〜っ。やだ〜っ!だって早起きしたくないもん」という、堂々たる反対意見の嵐が、隊長、副隊長を中心とした他の東京神奈川達から湧き上がって、にべもなく白馬行きは却下となり、けっきょく南アルプス前衛の入笠山でスノーハイクを楽しむことになった。 調布から中央道に乗る時点で路に迷い、早くも40分の時間をロスした東京神奈川隊は、諏訪南I.Cから富士見パノラマスキー場の駐車場に車を止め、シャトルバスに揺られて、意気揚々と入笠山の登山口を目指した。ゴンドラリフトの入口で、潤平隊長と高田隊員がレンタルのスノシューを借りる。ケイ隊員、かば隊員、そしてえび福隊長は自前のスーシューである。 数年前、スノシューがブームになりかけた頃、「絶対買おう!」と申し合わせた潤平隊長とえび副隊長だったのだが、約束通りスノシューを手に入れたのはえび副隊長だけで、潤平隊長がスノーシュー購入のためにかき集めた資金は、自らの飲み代にすべて消えた。 ゴンドラリフトに乗り込み、ケーブルの中継鉄塔でゴンドラが揺れるたびに身体を硬くして、小さな悲鳴を上げるえび福隊長であるが、そんな女の子らしい仕草にさえ、KKFCの隊員達は無反応である。隊員達はこれからのスノーハイキングのことで、そして潤平隊長は今宵の松本アルプスの酒のことで、すでに頭がいっぱいなのである。 |
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ゴンドラリフトを降り スノーシューを履いてスキーゲレンデを横切り 入笠山登山口に入っていく。 この時期、雪はしっかりついており しかも人気のコースということもあって 登山道はみごとに踏み固められて 快適な道ができている。 「あのさあ。この道だったら スノーシューを履かない方が楽なんじゃないの〜?」 初めて履く スノーシューの扱いに手間取りながら 潤平隊長が後ろから声を掛ける。 山に入った途端 文句の多くなる男である。 登攀隊長に任命されながら まるで駄々っ子だ。 林間の登山道を抜けて 入笠湿原の入口に差し掛かったところでイップクつけ なおも不平を口にする潤平隊長を 「まあ、これもスノーシュー入門のステップだと思って」と かば隊員がなだめる。 優しい男である。 |
| 白一色の入笠湿原を越えると 道は入笠山山頂に一気に突き上げる 雪の急斜面となる。 見上げる空には雲ひとつない。 まさに快晴のスノーハイクだ。 ここからは各自が好きなコースを選び スノーシューをパフハプ言わせながら 山頂を目指す。 チャレンジ精神旺盛なケイ隊員は あえて林間の深雪に入り スノシューを履きながらもツボ足になり 荒い息を履きながら上を目指している。 その光景を横目で見ながら 「階段があるのに、わざわざ無理をして 手すりにまたがって上を目指しているような奴だ」 などと山ヤの精神の欠片さえ理解しようとしない 独り言をつぶやきながら 潤平隊長が踏み固められた登山道を行く。 ようやくスノーシューの扱いに慣れ始め それでも時に自分で自分のかかとを踏みつけて 「なんだよ!邪魔するなよ!」などと まるで自分の尻尾に噛みつこうとして ぐるぐる回っているノラ犬のように 自分の足にに対して文句を言っている。 いろいろとうるさい奴だ。 |
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後ろから聞こえるえび副隊長の息づかいが荒いが そこには伴侶であるかば隊員が しっかりとサポートについているので なんの心配もない。 潤平隊長と同じく この日がスノーシューデビューの高田隊員は マイペースで雪の感触を楽しんでいる。 キリマンジェロの頂きも征している 高田隊員のその足取りはさすがに軽い。 歩き始めてから約1時間。 それぞれの隊員が それぞれのコースを登り 全員が無事 入笠山の山頂に到達した。 |

| 広い雪原となった入笠山の山頂からは、大きく青い空の下、360度の大展望が広がっていた。南アルプスの甲斐駒ヶ岳を初めとして、御岳、中央アルプス、乗鞍、北アルプス、そして八ヶ岳と、「木曽」「飛騨」「赤石」という日本を代表する三つの山脈が、雪を被ったその稜線を惜しげもなく登山者達に披露している。思わず歓声を上げたくなる瞬間だ。 しばらく思い思いにカメラのシャッターを切っていた隊員達は、やがて山頂の一角に陣取って、昼食の準備を始めた。今日のメニューは、肌を切るような雪山の山頂にふさわしい、豚肉と山菜入りの煮込みうどんである。 鍋に湯を沸かし、うどんがほぐれたところで出汁と食材を放り込む。あらかた火が通ったところで溶き卵を流し込み、かき玉うどんにしようとした。 しかし、気温が低いために湯がなかなか沸騰しきらず、かき回しているうちに玉子が全て汁に溶けてしまい、しかもそこにトロ味をつけるために片栗粉を入れたために、鍋の中の汁は黄土色に変色し、鍋の底から沸騰した泡が時々、ボコン・・・ボコン・・・と音を立てて飛び出してきて、まるで地獄谷の泥湯温泉を連想させるような代物になってしまった。 それでも、冷え切った身体には腰の強いうどんとトロ味のついた汁が心地よく、隊員達は我先にとコッフェルにうどんと汁を掬って頬張っている。山で食べれば何だって旨いのだ。 山頂で記念写真を取り、大展望をもう一度眺めてから、隊員達は入笠山山頂を後にした。 |
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| 入笠湿原までは、急な斜面である。 山頂直下、最初はスーノシューで慎重に後ろを下っていたえび副隊長だが、つるつる滑る凍結した斜面に嫌気がさしたのか、おもむろにスノーシューを脱いで、尻セードの体勢に入った。かば隊員がその要領を見せるように、凍結した急斜面を、滑り台を下りてくる子供のような目をして滑ってくる。 続けてえび隊員が滑り始めたが、途中で「きゃぁぁぁぁぁぁっ!」という悲鳴とともに身体が反転してうつ伏せになってしまい、そのまま下まで滑ってきた。自分の意思で滑っているのか滑落しているのか理解できない下り方だ。 ここからは、登りと同じように各々が好き勝手に雪の斜面を歩き始める。ケイ隊員は例によって深雪の中に消えた。 30分ほどで春には湿原に様変わりする雪原にたどり着き、一同が集合して一休みしてた時、突然ケイ隊員が叫んだ。 「隊長!かば隊員とえび副隊長の姿が見えません」 総勢5人なのだから、そのうちの2人がいなければ、そんな事は言われなくたって誰でもわかるのだが、潤平隊長と高田隊員は大仰に腕を組む。 「ううむ・・・。心配だ・・・」 |
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待つこと5分。 逆光に映える 入笠山南西壁の白い斜面を 気遣うように時々後ろを振り返りながら下ってくる かば隊員の赤いジャケットが見えた。 そしてその後方20メートル。 糸の切れた操り人形のような 不規則な動きを見せながら 小さな黒い点が下降してくるのがわかる。 「えび副隊長〜〜〜〜っ! 生きていたかあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」 搾り出すような声でケイ隊員が叫ぶ。 それはまさに 絶望視されていたエベレスト山頂から ベースキャンプに奇跡の生還を果たした クライマーを見るような感動的な光景であった。 |
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| さて、約束の時間を大幅に遅れながらも予約しておいた松本のベースキャンプ(ビジネスホテル)で、東京神奈川隊は、群馬隊となんとか無事合流し、一同は厳冬期松本アルプスに勇躍繰り出した。 群馬隊は、軽く独鈷山を片付け、麓の鹿教湯温泉でのんびり汗も流して身も軽い。対する東京神奈川隊は、入笠山を下りた時点ですでに松本集合の時間が迫っており、取るものも取りあえず松本アルプスに駆けつけたので、ひと息つく暇もない。 ベースキャンプから、今回、登頂を目指す松本アルプスの名峰「山海亭」までは、尾根道を歩いて約10分などと隊員達に説明して、胸を張って先頭を歩き始めた潤平隊長だが何のことはない。実は「山海亭」は、ベースキャンプから見える位置にあり、歩いて2分という近距離で、相変わらず頼りにならない道案内である。 おそらく前回潤平隊長が歩いた時は、遭難寸前になるまで飲みまくり、2分で行き着く道を10分掛けて、やっとの思いでたどり着いたのであろう。 今日のゲストであり、木曽からわざわざ列車に揺られて来てくれた木曽駒さんと合流し、山海亭に入る。ケイさんが「お世話になる山海亭さんにお土産を」と、あらかじめ用意したお菓子の包みをさりげなく潤平隊長に渡す。 そんな心使いに微塵も気づかなかった潤平隊長は、「はあ。これはどうも」などと、まるで自分がお土産を貰ったかのように頭を下げて恐縮している。情けない男だ。 |

| 潤平隊長が昨年も 散々世話になった女将さんが 「今年もよろしく」とにこやかに迎えてくれて あらかじめ用意してくれていた 一番奥の座敷に案内してくれた。 とりあえず生ビールで乾杯し 今日のそれぞれの山行の話などで盛り上がっていると 女将さんが現われて 「○沢はまだ、蕎麦屋も方にいて 来るのが遅れますので それまでのつなぎにこれを飲んでいてください」と 見るからに高級そうな 酒を差し入れてくれた。 |
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実は昨年 潤平隊長がこの山海亭で飲んでいる時に ひょんなことから店の人達に正体がばれてしまい それ以来、この店の○沢さんと 懇意にさせてもらっていて 山海亭を訪れる度に 歓待してもらい恐縮しているだ。 ○沢さんは 松本から鹿教湯温泉に向かう国道254線沿いで 手打ち蕎麦の店を営業する 生粋の蕎麦打ち職人だ。 今回、松本アルプス登頂の第一座を 「山海亭」にしたのも ○沢さんに無理を言って 席を用意してもらったものなのである。 生ビールを3杯ほど飲み干し それぞれの山で覚えた喉の渇きを潤して 差し入れしてもらった幻の酒「酔園」を 皆でご馳走になる。 そこに今度は 木曽駒さんがわざわざ地元から持ってきてくれた 木曽の銘酒「杉の森」の一升瓶が登場した。 飲み屋に入いりながら 持ち込みの一升瓶を堂々とテーブルの上に置いて 酒盛りする傍若無人振りである。 潤平隊長が大のお気に入りである 「板長のたまご焼き」を頬張って目尻を下げている。 |
| 何時しか、話は昨年の 風雪の奥日光遭難寸前新年会の話になり 完全凍結したイロハ坂を 山に行きたい隊員の懸命の制止を振り切って ノーマルタイヤで暴走したケイ隊員が それを教訓として その後、慎重な運転をするようになったのを聞き 山に行きたい隊員が大きく頷いたのもつかの間 その時、ボロン号に同乗していて あわや大惨事という目に直面しながら 今年の正月 同じ日光の湯の丸高原に ノーマルタイヤで突っ込んだ かば隊員とえび副隊長の暴挙を知るにいたり 怒り心頭に発する。 「こいつら、全然学んでいない!」 |
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| 恐らくこの酒宴の料理が鍋だったならば、今頃えび副隊長とかば隊員は、山に行きたい隊員が投げつけた白菜の塊で流血騒ぎを起こしていたことであろう。 |
| わいわいやっているうちに、蕎麦屋を切り上げた○沢さんが顔を出して、にこやかに話に加わった。締めに、取っておきの蕎麦を出してくれると言う。 テーブルの上に置かれた一升瓶に目をやり「持ち込みですか!お客さん困りますねえ」と言うが、その目は笑っている。そして、厳かに差し入れてくれたのが、滅多なことでは店にも出さないという超高級酒の「神寿」である。 「とにかく味わってみてください」とお洒落な冷やのガラス徳利に入った酒の値段を聞いて一同唖然とした。なんと一合6,000円である。こんなものをいただいちゃって良いのだろうかと、何故かひそひそ声になりながら、一滴たりともこぼすまいと、皆がお猪口に口を寄せて味わってみる。まったりとトロ味のある、丹念に吟醸された米の味だ。う〜ん、6,000円か・・・。味よりも値段にびっくりしている。 「酔園」「杉の森」「神寿」そして「大信州番外編」という超怒級の日本酒の猛吹雪の連発に、隊員達の目つきがそろそろ怪しくなり始めている。 |
| 中でも一番しっかりして いなければならないはずの潤平隊長が すでに半分意識を失いかけ うつろな目をしてコックリコックリと傾き始めており もはや滑落の一歩手前だ。 意識が薄れそうになる瞬間 「隊長!隊長!」と声が掛り 慌てて目を開けると 目の前に山に行きたい隊員が 差し出す日本酒がある。 助けるどころか 追い討ちをかけて 滑落するのを待っている。 |
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ふと横を見ると 一番端の席に座っていたはずのきむひろ隊員が 座敷の壁にもたれ掛かり 窮屈な体勢で 意識を失っている。 すでに硬直が解け 身体の筋肉が弛緩し始めている。 慌てて駆け寄る隊員達だが 別に揺り起こすわけでもなく レスキューシート(新聞紙)を掛けるわけでもない。 皆が手にデジカメを持って すでに抜け殻になり始めているきむひろ隊員の姿を にやにや笑いながらカメラに収めているのだ。 |
| そんな異様な光景を、口を開けて唖然と見つめる木曽駒さん。恐るべしKKFC・・・と、彼女は恐怖さえ感じたに違いない。 |
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| その後も、蕎麦ピザ、刺身の盛り合わせなどがテーブルに並ぶが、滑落と復活を繰り返す潤平隊長にすでに食べる気力は残っていない。 そして誰が注文したのか、潤平隊長の大好物である馬刺しまで皿に盛られてきた。 これだけはいただかなければと、馬刺しにカメラを向けて写真に撮ったまでは良いが、その後、ケイ隊員に注がれた木曽のにごり酒で、潤平隊員はついに谷底まで滑落する。 再び意識を取り戻し、何とか尾根に這い上がった時、馬刺しが盛られていたはずの皿には、すでに大根のツマしかなくなっていた。聞けば、ケイ隊員が「うまい!うまい!」と言いながら、次々と馬刺しを口に放り込んでいたと言う。 たとえ苦楽を共にした仲間同士でも、目的のためならば容赦なくザイルを切って落とす・・・。非情なり!KKFC! |
| その後、22時10分の木曽行き最終列車に乗らなければならない木曽駒さんを見送り、KKFCの面々もそれを機会に、散会することにする。 締めに、かば隊員が「なんだ!これ!」と思わず叫ぶほど旨い手打ち蕎麦をご馳走になり、千鳥足で山海亭を後にする。聞けば、手間が掛りすぎて、店に出したら元が取れないので、メニューには書いていない蕎麦なのだそうだ。 気がつけば今日は土曜日。井上靖の「氷壁」を題材にし、前穂高東壁をK2に、ナイロンザイルをカラビナに変えて、現代風に作り変えた国営放送のドラマの第3話が始まるころだ。 遭難しそうになりながらも、怒涛の日本酒猛吹雪に耐え抜いたKKFCの面々。そして度重なる滑落からなんとか息を吹き返した潤平隊長ときむひろ隊員は、アルコール過多で朦朧としながらも、なんとかベースキャンプまでの2分の道程を乗り切った。 そして、10畳の和室に、うなぎの寝床のように横に並べられた布団に寝そべって、「やっぱり山ヤたるもの、ドラマ化された氷壁だけは見とかなきゃねえ」などと言い合いながら、いそいそとテレビのスイッチを入れたKKFCの面々・・・。 しかし、そのほとんどはドラマを最後まで見ることなく力尽き、ある者は掛け布団の上でテレビを見ていた体勢のまま硬直し、またある者は布団と、壁に立てかけられたザックの間に挟まったまま寝息を立て、そしてある者は、何故かズボンを脱いでパンツ一丁のまま意識を失っていたという。 悲惨すぎるぞ!KKFC・・・。 |

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遭難寸前となった ベースキャンプの夜が明けても KKFCの松本アルプス縦走は続く。 ベースキャンプを後にして 女鳥羽川沿いの凍結した尾根道をたどり 中央尾根に入って 「七福ボーリング場」を目指す。 今日は、KKFCボーリング決戦なのである。 何とも怪しげな入口から 戦時中に作られたような 古いエレベーターに乗って ビルの3階で下りる。 |
| エレベーターの前にいきなり暖簾が下がっており 「冷暖房中」という手書きの張り紙が シャッターに貼られている。 横にカーテンが下がっており 恐る恐るそれをくぐると そこには最後に誰が使ったのかもわからないような 古いビリヤード台があり 再び現れたカーテンをくぐると 目の前にボーリング場が現われた。 午前10時を過ぎた日曜日だというのに 客はひとりもおらず 閑散としているどころか寒気さえ覚える。 訝しげにゲームの申込書に 鉛筆書きで隊員達のニックネームを書き込み フロントのお姉さんに渡す。 20レーン近くあるボーリング場が まさに貸しきり状態だ。 それにしても寒い。 わざわざ「冷暖房中」などと 注意書きがされていた時から おかしいとは思ったのだが なんと暖房の正体は フロントとレーンの間に置かれた石油ストーブである。 他の隊員を動揺させないよう デジカメが入ったポーチに付けられた温度計をチラリと見た 潤平隊長の目が点になった。 |
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なんと室温7℃だ! これだけ広いボーリング場に客はわれわれ7人だけ。 しかも暖房は石油ストーブ。 スポーツの会場に漂う人の熱気など欠片もない。 寒いわけである。 まるで氷河だ。 |

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何とかゲームを始めた KKFCのメンバー達だが あまりの寒さに手がかじかみ 身体の筋肉も硬直して 投げたボールは全て 明後日の方向に飛んでしまい まるでガーターの掃除をしているような有様だ。 「た、隊長!指が凍傷になりそうです!」 ケイ隊員が真面目な顔で訴える。 姿が見えないと思った 山に行きたい隊員と高田隊員は すでにレーンから離れ 石油ストーブにお尻を向けて 暖を取っている。 |
| こんな寒さに負けるな!と気合を入れる潤平隊長であったが、なんとか1ゲームを終え、他のメンバーの身体が暖まり初めて、ストライクやスペアを連発しはじめた2ゲーム目にはすでに力尽き、ひとりミスを連発するのであった。 潤平登攀隊長、寒冷対策以前に体力なさ過ぎである。 |
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3ゲーム目。 8フレームを終えて わずか2ピン差という 際どい勝負を繰り広げていた ケイ隊員とえび隊員の間に事件が発生する。 先に投げたえび隊員がスペアをミスし ケイ隊員がスペアを取れば ほぼ勝負が決まるという第一投。 ボールは中心を外し 無情にも複雑な形で6本のピンが残った。 スペアを取るのは困難なピンの配置だ。 えび隊員の口元が思わず緩む。 |
| その時、しばらくレーンに佇んでいたケイ隊員が、「あれ〜・・・。ボールが戻って来ないなあ」などと呑気に言いながら、おもむろにボール置き場の下にあるボタンを押した。 その途端、複雑な配置で残っていた6本のピンが、ガコンという音と共に機械で払われ、レーンに新たに10本のピンがセットされたのである。ケイ隊員が押したのは、なんとリセットボタンだったのだ。 フロントのお姉さんを呼び、事情を説明すると「ああ、それはノーカウントで投げ直しですね」と明快に答える。 黙っていないのは、熾烈な争いを繰り広げていたえび隊員である。 「なによ!それ〜っ!ずるいわよ〜っ!」 涼しい顔をして、再び第一投を投げ、そして涼しい顔をして見事にスペアを取るケイ隊員。 厳冬期七福氷河・・・。今ここに「疑惑のナイロンザイル事件」ならぬ「疑惑のリセットボタン事件」が勃発した。 【勝負はとりあえずケイ隊員の勝ちとなりましたが、KKFCはここに「疑惑のリセットボタン事件」の検証を続け、真相解明に全力を傾けることを誓います KKFC一同】 |
| 何とか全員が3ゲームを投げ終え 昨夜の激闘の名残と厳しい寒さ そして久しぶりに使った 腕と腰の筋肉の張りで へろへろになりながら 七福氷河ボーリング場を後にして 中町尾根に繰り出す。 ここには えび隊員がかねてから 訪れたいと思っていた 中町を代表する老舗である 「漆器の伊原」と「ちきりや工芸店」がある。 厳しい戦いの後の しばしの買い物タイムだ。 |
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| 相変わらず雲ひとつない晴天だが 身にまとわりつく空気は刺すように冷たい。 遠く美ヶ原の山頂が綺麗だ。 各々が買い物を済ませ 上土尾根から縄手通り商店街をぶらぶらと冷やかして ベースキャンプに置き放しにしていた車に戻る。 そろそろ松本アルプスの縦走も終わりを迎えようとしている。
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| 打ち上げは山形村の唐沢蕎麦集落で 田舎蕎麦に舌鼓を打つことにしよう。 上高地に向かう国道158号線から どこまでも青い空の下 穂高連峰から後立山の稜線が まるで行く手を遮る屏風のように立ちはだかっている。 「どうせならば、本当に遮られて、このままここに居座りたいものだ」 ケイ隊員が運転するボロン号の助手席で 潤平登攀隊長は今回の縦走を思い起こしながら ぼんやりとそんなことを考えていた。 |
