葛城山パノラマパーク⇔葛城山葛城山分岐益山寺分岐発端丈山
(歩行時間 登り2時間、下り2時間)




2001年の初山行を伊豆の天城越えに定めた僕は、明日から3連休が始まるという金曜日の夜、
夜明けまでの時間が我慢できずにルンルン気分で車に乗り込み、横浜I.Cから東名高速を沼津方面に走った。

御殿場を過ぎたのが午後の10時40分。このままでは12時前に伊豆に着いてしまう。

「ちょっとばかり気持ちがはやり過ぎたかな」とサービスエリアに車を止めて
普段から後部座席に広げてある封筒方シュラフを肩まで掛けて
夜明けまで仮眠するつもりが目を覚ませば日差しも眩しい午前9時という大失態。
なにが悲しくて、わざわざ高速道路のサービスエリアでたっぷり睡眠を取らなければならないのか・・。

すでに行楽客でいっぱいになっているサービスエリアの自動販売機で
いまさら缶コーヒーを買って眠気を覚ましている自分の姿が情けなくなってくる。
これから車を飛ばしても天城連山を縦走するのはとても無理だ。

「なんだかなぁ」などとブツブツ言いながら悲しい顔のまま沼津I.Cまで車を飛ばす。

I.Cを下りて国道1号から136号に入り、とりあえず天城を目指して伊豆中央道を走った。

途中、道路の上をロープウェイが横切った。
「へえ、道路の上にロープウェイなんて珍しいな」
などと例によって独り言を言い
何気なくロープウェイが登ってきた方に顔を向けると道路の直ぐ脇にロープウェイの出発駅があり
「葛城山パノラマパーク」と大きく書かれている。

「どうせこれから天城に行っても仕方ないし、ここで良いや・・・」
などと安易に妥協した僕は、直ぐ先のI.Cで伊豆中央道をさっさと下りると
ロープウェイ駅の駐車場に車を止めて、賑やかに搭乗を待つ観光客の列に並んだのである。




りっぱな搭乗駅で葛城山までの往復切符を買い
ロープウェイに乗り込む。

連休初日の午前10時過ぎ。
すでに多くの観光客が並んでいたが
あっという間に順番が来た。
名前はロープウェイとなっているが
白馬八方ののゴンドラリフトと同じで
6人乗りの綺麗な箱が次から次へとやってくる。


いつもの事ながら
高所恐怖症の僕は
ロープウェイに乗っている間中
体中の筋肉を緊張させて
歯を食いしばっている。

『そんなに高い所が苦手なのに
よく山に登れるな』
と友達に不思議がられるのだが
僕が震えるのは人工物によって
高い場所に引き上げられた時だけなのである。

遊園地の観覧車なんて
どこが楽しいのかわからない。

乗り合わせた
家族連れの小さな女の子と目が合って
にこりと笑顔を返した僕だが
女の子の隣に座っていたお母さんは
僕の笑顔が引き攣っていた事を
見逃さなかったようだ。

今回の恐怖のスペシャルタイムは
7分間で無事終了した。


「ふぅぅぅ」と息を吐いて
ロープウェイを下りると
そこはすでに葛城山の山頂である。

展望台からは富士山は勿論の事
遠く真っ白な南アルプスまでもが見渡せる。

展望台のベンチに腰掛け
煙草に火を付けながら
ロープウェイ駅で貰ったガイド冊子に目をやると
「さえずりの小径」という遊歩道の先に
城山、発端丈山という山への
ハイキングコースがあるという。

このまま下りてしまっては
いくらなんでも酷すぎる。
「インチキ山男」の「山」さえ
取れてしまう。

とりあえず山に来た証拠にと
僕は「さえずりの小径」という
なんとも素敵な名前の遊歩道に足を向けた。


展望台から5分程歩くと
願掛けの腹巻を巻いた百地蔵の小山に到着した。

地蔵の向こうに見える小高い山に向かう道が
「さえずりの小径」らしい。

駐車場に止めた車の中に
地図もガイドブックも置いてきてしまった僕は
地蔵さんに軽く手を合わせてから
薄っぺらなガイド冊子と道標だけを頼りに
先を急いだ。


「さえずりの小径」を経てようやく山道に入り
観光客も少なくなって
「やっと山歩きらしくなったなあ」
などと一人頷いていたら
ほんの15分程で
さっき通った百地蔵に戻ってきてしまった。

なんの事はない
僕は発端丈山への分岐を見逃し
「さえずりの小径」を一周しただけなのだ。
地図とガイドブックがなければ
こんな所でさえ迷走してしまう
自分の方向感覚とセンスの無さにウンザリする。

時計を見るとすでに午前11時。
ようやく見つけた発端丈山への道標の横で
まだ登山も始めていないのに
早くも昼飯の鍋焼きうどんに火を入れる。

「なんだかなぁ」

僕はまたもや呟いた。


カチンカチンに凍った
鍋焼きうどんの解凍に20分も掛かり
おまけにその姿を
通り過ぎる観光客に
物珍しそうに何度も見られて
分岐点を発端丈山に向かった頃には
時計はすでに午前11時40分を過ぎていた。

いきなり始まる急降下。
web仲間の「山に行きたい」さんに教わった
『森のクマさん』を口ずさみ
飛ぶように下って行く。

「スタコラサノサノサ〜〜」





30分程下るといきなり平坦な林道に出てしまった。

実を言うと下っている途中で
ちょっと不安になっていたのだが
その不安が的中してしまった。
何のことはない
ロープウェイとは対角線上の山道で
葛城山を下りてしまったのだ。

駅で貰った観光客用のガイド冊子には
当然等高線などついていない。

てっきり縦走コースだと思ったのだが
よくよく読み返してみれば
『葛城山を下って発端丈山に登り
西伊豆三津に抜ける・・・』とある。

車は駐車場に止めたまま。

このまま戻ったら
ロープウェイで葛城山に登り
徒歩で下って再び登り返し、
そしてまたロープウェイで下るという
他人がみたら
「あんた何やっているの?」
と言いたくなるような山歩きになっていまう。

意を決した僕は
このまま発端丈山に登り
三津には下りずに
また来た道を葛城山まで戻って
ロープウェイで駐車場に戻るという
何とも気の重い道を歩き始めた。


平坦な林道を10分程歩き
現れた道標から発端丈山への山道に入る。

ちょっと登ったら
直ぐに快適な杉林の平坦な道になった。

僕は杉林が大好きである。

ニコチンで
真っ黒になっているであろう
肺の中を少しでも綺麗にしようと
僕は何度も深く深呼吸をした。


40分程登り4等三角点の印のある
小さなピークで一息ついて
来た道を振り返ると、
ぼやきながら鍋焼きうどんを食べた葛城山が
谷を隔ててくっきりと見えた。

「またあそこまでもどるのかよー」

なんだか
うんざりしてきた僕は
三角点の上に腰を降ろして
立て続けに2本
煙草に火をつけた。


小ピークを軽く下り
最後の急登を
山頂目指して頑張る。

何時もながら
木々の上が明るくなり
テッペンが近い事がわかると
嬉しくなってくる。

『頂上が近くなってホッとするくらいなら
最初から登らなければ良いじゃないか』
と言うのは
山を知らない人の言う言葉。

この気持ちが味わえるからこそ
山は楽しいのだ。


急登を抜けると
スパッと空が広がって
発端丈山の山頂に辿り着いた。

いきなり富士山が目の前に浮かび上がって
「お〜〜〜っ」
と歓声を上げる。

先行していた3人連れのグループに
「お疲れさん!」と声を掛けられた僕は
はにかんで笑顔を返した。





山頂からの展望は、
駿河湾にぽっかりと浮ぶ富士山の雄姿が素晴らしく
暫く煙草に火をつける事さえ忘れるほどのものだった。

「ヤッパ来て良かったわぁ」
と独り言を言いながらその景色に見とれている僕に
「三津からはバスですか?」
と三人組が声を掛ける。

「これから葛城山に戻るんですよ」
と答える僕に
三人は顔を見合わせて
「それはお疲れさんです」
と首を振りながら言った。

三人組の目は僕を通り越して、
僕の後ろにある景色を厳しい目で見ている。

僕は振り返り
3人が見つめていた
谷を隔てた葛城山の雄姿を遠く眺め
我に帰ってうんざりしながら

「なんだかなぁ・・・」

と再び小さく呟いた。





2001年2月10日

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